【書評・あらすじ】山口未桜『禁忌の子』｜禁じられた命が、世界を動かす。

皆さんは、X（旧Twitter）のタイムラインで何度も見かける話題作に心惹かれた経験はありませんか？今回ご紹介する山口未桜さんのデビュー作『禁忌の子』は、まさにそんな一冊でした。

現役医師が描く医療×本格ミステリーとして、発売前から注目を集め、2025年本屋大賞では第4位を獲得した話題作です。自分と瓜二つの遺体との遭遇から始まる衝撃的な物語は、命や家族のあり方、そして現代社会が抱える生命倫理の「禁忌」に深く切り込みます。読後には、きっとあなた自身のルーツやアイデンティティについて、深く考えさせられるはずです。

『禁忌の子』のあらすじ

本の詳細	内容
タイトル	禁忌の子
著者	山口未桜（やまぐち みお）
出版社	東京創元社
発売日	2024年10月10日
ページ数	320 ページ
Audible再生時間	00時間00分

物語は、救急医として働く主人公・武田航のもとに、彼と瓜二つの溺死体「キュウキュウ十二」が運び込まれるという、まさに衝撃的な場面から幕を開けます。身元不明の遺体を前に、武田は混乱しながらも、この人物の正体と自分との関係性を突き止めることを決意。旧友で消化器内科医の城崎響介と共に、自身の生い立ちや家族の過去を深く探る調査を開始します。
調査を進める中で、武田の母子手帳の記載内容に違和感を覚え、両親が妊娠初期に通っていた生殖医療クリニックの存在が浮上。しかし、真相に迫ろうとした矢先、生殖医療の先駆者である生島京子が密室で死亡しているのが発見され、物語は単なる身元探しから、過去と現在に連鎖する複雑な事件の真相解明へと大きく動き出します。出生の秘密、医療技術の「禁忌」、そして親子の愛情や罪の意識といった重厚なテーマが絡み合い、読者は予想もしない結末へと導かれることでしょう。

『禁忌の子』の感想

この作品を手に取ってまず圧倒されたのは、冒頭の「自分と瓜二つの溺死体」という衝撃的な導入でした。読み始めた瞬間から物語に引き込まれ、次々と明かされる謎に、ページをめくる手が止まりませんでした。現役医師である山口未桜さんだからこそ描ける、緊迫感あふれる医療現場の描写も印象的です。専門用語が出てきても、物語の中で自然に説明されるため、医学知識がなくても安心して読み進めることができました。

特に感銘を受けたのは、ミステリーとしての巧妙な謎解きに加え、生殖医療や生命倫理といった現代社会の「禁忌」に真正面から切り込んでいる点です。主人公・武田が自身のルーツと向き合う姿を通して、「親子とは何か」「自分とは何か」という根源的な問いを深く考えさせられました。血縁関係だけではない、愛情や絆が家族を形作るという視点は、多様な家族のあり方を考える上で非常に意義深いと感じます。

一方で、物語の終盤で明かされる衝撃の真実と、倫理的な葛藤を含む重たいテーマは、読後に複雑な感情を残しました。必ずしも「ハッピーエンド」とは言えないかもしれませんが、登場人物たちがそれぞれの形で救いを見出す描写には、深く心を揺さぶられます。ある読者の感想にもあるように、「テーマが重すぎて気分が沈んだ」「倫理的な話題が多くて読み進めるのがつらかった」という意見も理解できますが、それこそが、現代社会の課題を突きつけ、私たちに思考を促す本書の持つ力だと感じました。

また、私自身が医療職として働く母親であるため、作中で描かれる医療のリアルな描写や、妊娠・出産を巡るテーマは特に心に響きました。友人の妊活経験も知っているため、「結婚したら子どもを持つのが当たり前」という社会の無意識のプレッシャーが、いかに多くの人の心にストレスを与えているかという描写には深く共感しました。
山口未桜さんのデビュー作とは思えない完成度と、重厚なテーマを巧みに織り交ぜる筆致には、ただただ感服するばかりです。今後の作品にも大いに期待しています。

『禁忌の子』はどんな人におすすめ？

『禁忌の子』：まとめ

山口未桜さんの『禁忌の子』は、自分と瓜二つの遺体という強烈なプロットから始まり、読者を深く引き込む医療ミステリーの傑作です。緻密な医療描写と、血縁、家族、そして「禁忌」という言葉が持つ重い意味が、読後も心に深く響き、「自分とは何か」という根源的な問いを投げかけます。ミステリーとしての謎解きの面白さだけでなく、現代社会の倫理的問題について考えさせられる、読み応えのある一冊です。続編『白魔の檻』も控えている本シリーズ、この機会にぜひ手に取って、その衝撃と深い感動を体験してみてください！

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