こんにちは、mimeiです。
私が好きな作家さんの一人、伊坂幸太郎さんの最新作
ペッパーズ・ゴースト
- 伊坂幸太郎さんの最新作を待ってました!!
- 伏線回収系の作品が好き
- やるせない気持ちを抱えている
- 現状を変えて未来をよくしたい
私の好きな伊坂幸太郎さんの最新作です。作家20年超の集大成とも言える本作。伊坂さんのいいところを詰め込んだエンターテイメント作品です。
はじめに
作品の情報
✔著者:伊坂 幸太郎
日本の小説家。
千葉県松戸市出身。東北大学法学部卒業。大学卒業後、システムエンジニアとして働くかたわら文学賞に応募、2000年『オーデュボンの祈り』で第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。
あらすじ
中学の国語教師・檀が主人公の物語。檀先生にはある秘密がありました。それは、他人の未来が少し観えるというもの。ある日、生徒の父親が監禁されている未来を観てしまします。どうにか救おうと事件を追うことで見えてきた、サークルと呼ばれる謎のグループの存在。女子生徒から渡された、猫を愛する奇妙な二人組「ネコジゴハンター」が暴れる小説原稿。全てがつながるとき、驚きと感動が待っています。
登場人物
檀千郷 中学校の国語教師。三十五歳。
吉村先生 檀先生の同僚。数学教師。
里見大地 中学生。檀先生の受け持ち生徒。父、祖母と三人暮らし。
布藤鞠子 中学生。檀先生の受け持ち生徒。自作小説を執筆中。
友沢笑里 中学生。布藤鞠子の友人。
里見八賢 里見大地の父親。公務員。
マイク育馬 テレビ番組司会者。
ロシアンブル ネコジゴハンターの一人。悲観的な性格。
アメショー ネコジハンターの一人。楽観的な性格。
罰森罰太郎 ネコジゴの一人。動画配信や仮想通貨で富を築いた富豪。
【サークルのメンバー】
庭野 三十代男性。庭師。まとめ役。
野口勇人 二十代男性。姉が庭野と婚約していた。
羽田野 六十代男性。元小学校校長。
成海彪子 二十代女性。カンフー映画を好む。
康雄・康江 六十代。医師と看護師の夫婦。
哲夫 五十代男性。元工場勤務。
沙央莉 二十代女性。
将五 二十代男性。
ペッパーズ・ゴーストの感想・心に残ったこと
もし他人の未来が見えたら?
もし他人の未来が見えたらどうしますか?
主人公の檀千郷は他人の少し先の未来が見ることができるという設定です。羨ましい能力のようにも思えますが、必ずしも幸せな未来ばかりではありません。
ある日、中学校の国語の教師をしている檀は担当生徒の未来を見ます。それは、担当生徒が乗る新幹線が脱線事故を起こすというものでした。
檀先生はその事故に直接関係しているわけではないので、黙っていれば、生徒が運悪く事故に巻き込まれてしまいです。ですが、事故が起こることを知ってしまった以上は、黙っているわけにはいきません。担当生徒に新幹線に乗らないように伝えます。それも、未来を見たと伝えても当然信じてもらえるはずもないので、知り合いの占い師に言われたと嘘までついて。
未来が見えてもいいことばかりではないですね。
こういったフィクション設定は伊坂さんらしいというか、のちのちの伏線として生きてくることが想像できるので、先が楽しみになりますね。
飛沫感染
他人の少し先の未来が観える檀先生の特殊能力は、どうやら遺伝のようです。
檀先生は未来を見ることを「先行上映」と言っています。この先行上映という表現は檀先生の父親が考えたと言います。だれも、本人すらみていない場面を先行的に見ることができるからと。
檀先生は父親が亡くなる前日に、未来が観えるようになることを伝えられます。
俺も自分の父親から、この体質について教えてもらったんだ
二十歳の時だ。『他人の未来を見るときがあるぞ』と。二十代後半から四十代にかけて、ひどくなる、とも
ペッパーズ・ゴースト 本文より引用
急にそんな告白をされても、信用できるはずがないですよね
檀先生も、未来予知は映画やSF小説、漫画の世界でしか見たことがないので、信じることができません。というより信じたくなかったんですね。なぜなら自覚があったから。夜、唐突に知らない場面が浮かび上がるような、奇妙な幻覚に似た映像を観ることがあったからです。それが誰かの未来だったのです。
でも、誰の未来かわからなければ、あまり使いみちもなさそうな気もしましたが、未来を観るには条件がありました。
父親いわく、風邪が飛沫感染するのと同じように、誰かの飛沫がかかると、だいたいその夜にその人の翌日の未来が観えるというのです。つまり、近くでしゃべったり、誰かが口をつけたものを飲んだり、食べたりすると、その人の未来が観える可能性があるのです。
発生条件が分かれば、活用はできそうですね。作中でも、事件に巻き込まれた際に、この能力をうまく利用する場面も出てきます。
伊坂幸太郎さんらしい登場人物
ある日、檀先生は担当生徒である布藤鞠子から自作の小説を渡されます。その小説の内容を一言でいうと「猫を虐待した人を懲らしめる物語」。
猫を虐待して楽しむという〈猫を地獄に送る会〉通称ネコジゴがあり(もちろんフィクションです)、
そのネコジゴをネコジゴハンターであるロシアンブルとアメショーが懲らしめていきます。しかも、虐待された猫と同じ方法で。
なんとも物騒な物語。
でも、このロシアンブルとアメショーの二人が個性豊かで楽しませてくれるキャラクターなんです。
ロシアンブルとアメショーはお互いを識別するためのニックネームで、猫の品種から選んだものです。
ロシアンブルーは冷たさを感じるグレーの毛色をし、性格は神経質と言われている。おまけに、「シアン」という響きは「思案」と通じるものがあるから、常に物事を心配し、考えなくてもいいことまで思案してばかりの男には合っていたし、物怖じしない活発なアメリカンショートヘアの短縮形「アメショー」は、ロシア語で「素晴らしい!」と簡単する際の「ハラショー」とも音が近く、前向き、楽観的なその若者の印象とも近かった。
ペッパーズ・ゴースト 本文より引用
ロシアンブルは悲観的で、アメショーは楽観的。対局の二人のやり取りには、とても楽しませてもらいました。
ロシアンブルはこんなことを言います。
不幸や恐ろしいことは、予想もしないところからやってくるんだよ。事前に、こうなったら嫌だな、と心配していたことは以外に起きない。子供の頃からそうだ。それによく考えてみろ。もし予想通りに嫌なことが起きたなら、『嫌なことが起きたけど、予想が当たった!』と喜びは味わえるわけだろ。それは、嫌なこととは言えない。
ペッパーズ・ゴースト 本文より引用
これについて相方のアメショーは「ねじれすぎていてよくわからない」と言います。私はこのロシアンブルの言葉に完全同意で、私自身同じような考え方で生きてきたので親近感が湧きました笑。
皆さんはロシアンブル派とアメショー派のどちらでしょうか?
良くも悪くも、この二人が物語の全体に大きく関わってきますし、二人の存在が本書のタイトルである『ペッパーズ・ゴースト』の由来に大きく関係しています。
永遠回帰がテーマ
本書のテーマは永遠回帰です。伊坂さんは〈あとがき〉でこのように書かれています。
ふとしたきっかけで、『ツァラトゥストラ』を読みました。大学生の時以来ですから、三十年近く経っての再読
ペッパーズ・ゴースト 〈あとがき〉より引用
です。学生のころは分からなかったけれど今読んだら、いろいろ分かるところがあった、と書ければいいのですが、今回も、分かるような分からないような、かといって面白くないかと言われれば決してそんなことはない、という昔と同じ感想を抱き、自分の成長のなさを痛感しました。その後、参考文献に挙げました本をガイドがわりに読み直すことで、「永遠回帰」の考え方にはっとさせられ(すべてに同意できるわけではないのですが)、自分の小説の登場人物たちにその思いを反映させたくなりました。
この〈あとがき〉の通り、作中でも永遠回帰について語られる場面があります。
サークルと呼ばれるグループが出てきます。このグループはある事件に巻き込まれて大切な人を失った人が互いに励まし合う集まりです。ある日の会合でニーチェの『ツァラトゥストラ』の話になります。
もともとキリスト教では、神の国を目指して過去から未来への直線的な世界観があります。しかし、神が死んだニヒリズムの世界では、生が意味も目標ももたず、創造と破壊を無限に繰り返す円環状の世界だというのです。
これって、捉え方によってはなかなか残酷な話ですよね。どれだけ頑張っても報われないわけです。特にサークルのメンバーは、事件によって大切な人を失っているので、立ち直ってもまた同じつらさを味わわないと行けないとなると耐えられません。それでも、励まし合いながらなんとか立ち直っていましたが、あることをしきりに、サークルのみんなの思いはひとつになります。
全部おしまいにしたい。
この「おしまいにする」の本当の意味は最後までわかることはありませんが、伊坂さんの思いは垣間見えた気がしたので、このあとのまとめで書きますね。
まとめ
物語を追うだけでも十分楽しめる作品でした。その中に永遠回帰のテーマが入り込むことで、格段に深さが増しているように思います。
これは私の私見ですが、伊坂さんはおそらく永遠回帰を否定したかったと思うんです。檀先生の未来予知の設定は、未来は変えられるということを伝えたかったのではないかと感じます。また、ロシアンブルとアメショーの会話の中の「僕は、誰かが書いているお話、たとえば小説か何かの一登場人物に過ぎない、そう思うことあるんですよね。」というセリフも、言ってしまえば永遠回帰だと思うんです。でもこの二人と物語全体の関係も、未来は変えられると感じる部分でもありました。ぜひとも伊坂さんの思いを聞いてみたいです。
人生について考えさせてくれる素晴らし作品でした。まだ読んでいない方はぜひ一読を。