【書評】高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』〜「おいしい」の定義、揺らぐ人間関係

高瀬隼子さんの芥川賞受賞作『おいしいごはんが食べられますように』を読みました。職場での人間関係と「食べること」という身近なテーマを深く掘り下げた本作は、読み終えた後も心にモヤモヤとした感情が残る、非常に示唆に富む一冊です。多くの人が「これ、私のことだ」と感じるような、現代社会に潜む心の闇や、一見「良いこと」とされていることの裏側に潜む「歪み」を鮮やかに切り取っています。この本は、あなたの「食」に対する価値観や、人間関係のあり方について新たな気づきを与えてくれるでしょう。

『おいしいごはんが食べられますように』のあらすじ

本の詳細	内容
タイトル	おいしいごはんが食べられますように
著者	高瀬 隼子
出版社	講談社
発売日	2022年 (2022/3/24)
ページ数	162ページ (単行本)
Audible再生時間	00時間00分

物語の舞台は、食品や飲料のラベルパッケージを扱う会社の埼玉支店営業部です。主人公は、仕事がそつなくこなせる入社７年目の男性・二谷と、その一年後輩で周りから守られる存在の料理上手な芦川さん、そしてさらに一年後輩で仕事ができる頑張り屋の女性・押尾さんの３人。 体が弱く、仕事を休みがちな芦川さんに、仕事のしわ寄せを受ける押尾は不満を抱き、「芦川さんにいじわるしませんか」と二谷に持ちかけます。一方、二谷は芦川さんと交際しているものの、彼女の「食に対する思い入れ」を鬱陶しいと感じています。 職場での微妙な人間関係、特に「食べること」を通じて描かれる彼らの複雑な感情が、やがて芦川さんの手作りお菓子を巡る「事件」へと発展していきます。

この小説は、読む人の価値観を問い直し、どこにでもありそうな職場の「配慮の歪み」を鮮やかに浮き彫りにします。

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『おいしいごはんが食べられますように』の感想

この小説を読んでまず感じたのは、登場人物たちの生々しい感情に心を揺さぶられる感覚です。特に、二谷や押尾の視点からは「あるある」と共感する場面が多くありました。 例えば、二谷が芦川さんの手料理を食べた後に、こっそりカップ麺をすするシーンは非常に印象的です。彼にとって、丁寧な手料理は「攻撃」であり、「ちゃんとした飯を食え、自分の体を大切にしろ、って言う、それがおれにとっては攻撃だって、どうしたら伝わるんだろう」という内面描写には、深く頷かされました。

世間一般の「良いもの」が、必ずしも個人にとってそうではないという、価値観の押し付けの難しさが鮮やかに描かれています。 また、芦川さんに対する押尾の苛立ちも、多くの読者が共感する点でしょう。押尾は、芦川さんの「弱さを武器にしている」ように見える態度に、「真面目な人間がバカを見る」という理不尽さを感じています。

一方、芦川さん視点の描写がないことで、彼女の純粋さゆえの「鈍感さ」や「無自覚のあざとさ」が浮き彫りになるのも本作の面白さです。善良な行いが、時に相手にとっての「攻撃」になり得るという「配慮の歪み」は、現代社会における人間関係の複雑さを象徴しているように感じられました。 この作品は、芥川賞作品でありながらも非常に読みやすく、それでいて読者の心に深く問いかける力があります。

私自身も、これまで漠然と感じていた「食」への苦手意識が「なぜ苦手なのか」とクリアになったり、自分の内面や周りの人々を深く考えるきっかけとなりました。

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『おいしいごはんが食べられますように』：まとめ

『おいしいごはんが食べられますように』は、一見すると地味な日常の中に潜む、複雑な人間関係や心の機微を鋭く描いた作品です。読む人によって共感するキャラクターや「嫌悪」を感じるポイントが異なり、読み終えた後も議論が尽きないでしょう。この小説は、あなたの心の奥底にある感情を揺さぶり、「自分にとっての本当の豊かさとは何か」を深く考えさせてくれます。ぜひ一度手に取って、あなた自身の「おいしいごはん」の定義を見つけてみてください！

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