- 『小説』のあらすじや感想を知りたい
- 『小説』を読んだ人のレビューが気になる

本記事はそんな方の疑問にお答えします。
「なぜ、私たちは小説を読むのか?」。本屋大賞にノミネートされたそのタイトルに惹かれ、野崎まどさんの『小説』を手にしました。この作品は、小説を読むという行為の根源的な意味を問い、読者に深い共感と新たな気づきをもたらす、まさに「読者のための小説」です。読書が好きなすべての人にとって、これまでの読書体験を肯定し、さらに豊かなものにしてくれることでしょう。



本記事では、この作品のあらすじや感想、レビューを詳しくご紹介します。
- 『小説』のあらすじ・感想・レビュー
- 『小説』がおすすめな人
『小説』のあらすじ


本の詳細 | 内容 |
---|---|
タイトル | 『小説』 |
著者 | 野崎まど |
出版社 | 講談社 |
発売日 | 2024/11/20 |
ページ数 | 224ページ |
Audible再生時間 | 00時間00分 |
物語は、小学6年生の内海集司が主たる視点人物として登場するところから始まります。医師である父親の期待に応えるため、本を読み始めた内海は、やがて小説の魅力にのめり込んでいきます。彼の人生は、5歳で読んだ『走れメロス』をきっかけに小説に捧げられることになります。12歳になった内海は、小説の魅力を共有できる生涯の友、外崎真と出会います。
二人は、学校の隣にある「モジャ屋敷」と呼ばれる建物に、高名な小説家が住んでいるという噂を聞きつけ、侵入します。意外にも、屋敷の住人である「髭先生」は二人を咎めず、屋敷にある本を自由に読むことを許します。以来、モジャ屋敷に通って本を読むことが彼らの日常、いや生活のすべてとなっていきます。
しかし、二人の関係は小学校から中学校、そして青年期へと続く中で変化していきます。内海の読書は分析的で知識を蓄えるのに対し、外崎の読み方は感覚的で直観に優れていました。ある出来事をきっかけに、外崎は小説を書く才能を開花させ作家の道を歩み始める一方で、内海は「小説を書けない自分が小説を読む意味はあるのか」という苦悩に直面します。本作は、この「読むだけじゃダメなのか」という問いを軸に、小説という存在そのものを哲学的に紐解いていく物語です。
『小説』の感想


この作品を読み終えて、胸に迫る熱い感動と、これまでの読書体験が肯定されたような深い納得感に包まれました。
特に印象的だったのは、主人公・内海集司が「小説を読むことが生きることだった」と語る一方で、「小説を読むことが頭の中で逃避や慰めという言葉と繋がってしまうのが辛かった」と苦悩する描写です。
彼は、書く才能がない自分が本を読み続ける意味を問い、「読むだけじゃダメなのか」という問いを抱えます。これは、私自身も漠然と感じていた、「何かを生み出さなければ価値がないのではないか」という現代社会の風潮に対する問いかけでもあり、深く共感しました。
作品の終盤で提示される「読むこと」の意味についての回答は、非常に壮大でありながら、読者の心にストンと落ちるものでした。ソースによると、その核心は「人の内側を満たすために、外へ出した嘘、それが小説である」という認識です。宇宙の膨張と収束、物質の分裂と結合になぞらえて、「何かを取り込むことで宇宙は形成されるように、人間の心も外部から情報や経験を取り込むことで成長し、満たされる。そして、嘘で構築されたフィクション(小説)によっても人は満たされ、感動し、体験を共有できる」と説かれます。これにより、「読むだけじゃダメなのか」という問いに対し、「読むだけでいい」という力強いアンサーが示されます。
これは、アウトプットが重視される現代において、「好きなことに時間やお金を費やしても誰も口出しする権利はない」という、ある種の解放感を与えてくれます。
また、小説が「文字だけで作られるもの」だからこそ、その「意味」を直接的に運び、純粋な虚構として特別な価値を持つという主張も、深くうなずけるものでした。作者のユニークでテンポの良い文体は、物語をスラスラと読み進めさせ、後半のSF的、哲学的な展開にも違和感なく引き込まれます。この作品は、単なる物語を超えて、読書という行為そのものへの壮大な「告白」であり、読者への肯定のメッセージであると感じました。
『小説』はどんな人におすすめ?





『小説』は、 以下のような人におすすめします。
- 小説をこよなく愛する人:「読書人の魂の叫びのような小説」であり、もともと本が好きな人は「もっと好きになる」と断言できる一冊です。
- 「読むだけじゃダメなのか」と悩む人:創作活動をしない「読む側」の立場にいる主人公が共感を呼び、読書すること自体の価値を肯定するメッセージを受け取れるでしょう。
- 哲学的・概念的な物語に興味がある人:「小説とは何か」「人はなぜ小説を読むのか」という深遠なテーマを、SF的かつメタフィクション的な手法で掘り下げており、知的な刺激を求める読者におすすめです。
『小説』:まとめ


野崎まどさんの『小説』は、その挑戦的なタイトルにふさわしく、小説という存在の核心に迫る意欲作です。読み進めるうちに、内海集司の苦悩と探求は、私たち読者自身の読書体験と重なり、深い共感を呼び起こします。そして最終的に提示される「小説を読むこと」の意味は、すべての読書好きの心を温かく包み込み、あなたの「読む」という行為を力強く肯定してくれるでしょう。読むことの意味を問い、新たな読書の喜びを発見したい方は、ぜひこの作品を手に取ってみてください!